2016年「澎湃新闻」
(中国・上海) 

http://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_1565737

どうして写真をとります?

失恋しましたから。

今回の写真祭で写真家たちのキャリアを紹介されたカタログを製作しました。

その中で森本洋輔がこのように自分の作品を紹介しています。
「彼女と別れた後、写真をとれなくなった。
それで公園や町で知らない女性の写真を撮り始めた。
それは昔を追憶し寂しさをつぶす方法である。」


澎湃新闻:
ウェブ上で森本さんの情報がなかなか少ないので自己紹介していただけますか。

森本洋輔:
1982年生まれ。香川県出身。日本写真芸術専門学校卒業。
2014年に写真新世紀優秀賞を受賞しました。
今回、展示したのは「yoyogipark, Shibuya-ku, Tokyo」という作品です。

澎湃新闻:
写真家になると考えたのはいつですか?

森本洋輔:
学校を卒業して撮影スタジオに勤務しました。
その後、写真家の助手として働いて独立しました。
スタジオや助手として働きながら休みの日に撮影していました。
その撮影していた写真が2014年にコンペティションで
優秀賞に選ばれて自分の写真を展示して公開できるようになりました。

澎湃新闻:
写真を撮るときどのように女性と交流しますか。
撮影するのにどのくらい時間をかかりますか。

森本洋輔:
日本では多くの女性が孤独で大変な毎日を過ごしています。
写真を撮らせてほしいとお願いすると「私でいいんですか?」といわれます。
彼女たちが僕が写真を撮る理由より、自分が選ばれたことを不思議に思います。
自分に良さに気づいてないのかもしれません。自信がないのかもしれません。
写真を撮る理由も問いただしてこない、なぜだろう。
その人を知りたいと思うとき写真を撮りたいと思います。
彼女たちが控えめですが自分の個性も持っていて撮影するべきだと思います。
控えめで見えづらいもののほうが写真には写ります。
撮影はただ4、5分くらいです。

澎湃新闻:
何の機材を使って撮影します?

森本洋輔:
Nikon F3とFUJI PRO 400Hのフィルムです。
暗室を持っていて自分でカラーフィルムをプリントします。

澎湃新闻:
こんなに多くの可愛い女性の写真を撮って販売したことはありますか?
肖像権のことは大丈夫ですか?

森本洋輔:
正直に言って、ここまではこのシリーズで一円も稼ぎませんでした。

澎湃新闻:
それなら生活費はどうします?

森本洋輔:
雑誌やWEBの撮影をしています。その仕事で収入を得ています。

澎湃新闻:
森本さんのモチベーションがけっこう単純なんですね。
あるコメントは森本さんの作品がこの十年間日本女性の変化を記録したと言いますが、
森本さんはどう考えてます?何か変化がありますか?
(十年間日本女性の変化のこと)何か深刻に記録したいテーマや深く表したいコンセプトがありますか。

森本洋輔:
(困りそうな顔をしている)ないんですね、ただ撮影しているだけです。

澎湃新闻:
そしたら、どのようにして十年間やり続けますか?

森本洋輔:
私はドキュメントを撮るわけでも記者になるわけでもありません。
そして自分の写真を商品として売ることも考えませんでした。
撮影する前にテーマやコンセプトも考えないです。
自分が撮りたいものを撮ってます。
こんなに長く撮ることは考えていなかったんですがいつの間にか十年が経っていました。
一日、町や公園を歩き何も撮らないことがあります。
三日、一週間でさえ何も撮らないこともあります。
十年間、こういうことが多かったです。それでも写真ということは私にとって必要なことでした。
自分では自分が写真で見たいものを撮影しただけで
他の人からみたらこの写真が社会的な意味があるかもしれませんが
私にとっては普通の物事を捉えただけです。

澎湃新闻:
家族がそれらの作品をみましたか?どう考えますか?

森本洋輔:
特に何も聞かれません。どうして結婚しないかは不思議に思うかもしれません。

澎湃新闻:
それなら森本さんは今も独身ですよね。
森本さんの元カノのことを知りたくなりました。
彼女の顔はまだ覚えてますか?パソコンの中に彼女の写真がありますか?

森本洋輔:
はい、独身です。
正直、元カノことを考えることはありません。
顔は思い出せますが。おそらく彼女は幸せに暮らしていると思います。
(作者:森本さんがパソコンを開けて、デスクトップで女の子の写真がぎっしり)
あ、このパソコンで元カノの写真がありません。

写真新世紀 2014年(第37回公募)優秀賞
「yoyogipark, Shibuya-ku, Tokyo」


選者コメント:ヒロミックス

まず東京の中心という都市感が良いですね。
それから世の中の既成概念にとらわれず色々な感じの女性が写っています。
一見いわゆるポートレートですがよく見ると被写体が全員うるっと半分泣きそうな顔をしていることに気付きました。
写真の一番大切なことは、言葉にならないから写真に残す。まさに言語化出来ない感情を写真にしています。
被写体はおそらく街でスカウトされプロではないので撮影してもらえて皆感動しているのか?
真相は分からないですが…ものすごく感情的ではないし派手でもないですが、ハッとするような感覚。
眺めていると女性っていいな、都市っていいな、そして写真っていいなと改めて思わせてくれます。
説明出来なさがすごく感覚的です。
左脳的な写真の解釈、手法が流行っていますが、本来は写真ってこっちなんですよね。

 

アーティストステートメント:森本洋輔

初めて写真新世紀展を見たのは2006年度の第29回で友人が佳作を受賞したのがきっかけでした。
翌年から自分も作品を応募するようになり、毎年出していたのですが落選していました。
今年、キヤノンから電話があり「優秀賞に選ばれました。」っと聞いたときは嬉しかったです。
過去にもこれほど嬉しかったことはないと思います。

10代後半から20代前半の時に付き合っている女性がいたのですが
写真を撮ることなく別れてしまいした。
写真を撮っていなかったことに少し後悔した気がします。
その影響でその後、女性の写真を撮ろうと思ったのだと思います。
彼女の家に行ったときに彼女と他の男が一緒に寝ていたことがありました。
その反動もあったかもしれません。

初めて女性に声をかけて撮影したのは代々木公園でした。
最初はなかなか声をかけることができず、ビールを飲んでから写真を撮っていました。
200人ぐらい撮ったときにバイト先の女性と付き合うことになり、次はその女性の写真を撮りました。
3年ぐらい撮っていたのですが別れてしまい写真を撮れなくなったので
また公園や町で声をかけて撮るようになりました。
今回の作品はここから撮影した写真が入っています。

最初に撮影した女性は一人で公園の芝生に座ってスタバのコーヒーを飲みながらiPodで音楽を聞いていました。
平日の夕方で他にほとんど人がいませんでした。
その女性は少し暗い感じがしました。ただ声をかけたら写真を撮ってもいいよっと言ってくれました。

少し寒かったかもしれません。
僕はお酒も飲んでいなかったので、気のきいたことも言えず、緊張して写真を撮りました。
5枚ぐらい撮り、それでお礼を行って公園を出ました。
ほとんど会話はなかったと思います。
連絡先も名前も聞きませんでした。

撮った写真を現像してプリントしてみると、悲しそうな表情の女性が撮れていました。
声をかけるときに「写真をやっているのですが写真を撮らせてくれませんか?」と言って写真を撮らせてもらいます。
声をかけても半分ぐらいは断られます。でも半分は撮らせてくれます。
撮らせてはくれるけど、僕があまり事情を説明しないので撮るので相手は不信に思います。
ですが写真を撮られるからと女性はきれいに写ろうとします。
その不安定な状態が別れるときに彼女が見せたもの似ているのかもしれません。
実際には見たくない表情ですが、写真では見たい表情でした。

代々木公園、渋谷、吉祥寺、新宿、上野、原宿、下北沢と場所を変えながら撮影しました。
一人の人に思い入れを持ちたくなかったので多くの女性を撮ってバランスをとっていたのかもしれませんし
彼女と似ている表情を撮ることで彼女の続きを撮っている感覚になっていたのかもしれません。
写真に撮り、写真を見ることで自分を慰めたかったんだと思います。
無意識に断片を集めていくことで自分の本質が表れ、それは自分以外の人にも共感されるものになると思います。
明確には分からないのですが、分からないことが重要だと思います。

写真にも全ては写らないし、余白が大事。
コンセプトがあってそれに写真がぶら下がっているのではなく、ただ写真がそこにあるだけ。
あとは美しければそれでいい。説明はしない。これからもそうだ。